東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2271号 判決
一、賃借土地上に二個の独立した建物を所有する賃借人がその内一個の建物とその敷地部分の賃借権とを第三者に譲渡し賃貸人が右賃借権の一部譲渡を承諾せず、右賃借地全体について賃貸借が解除された場合でも、買取請求の対象となるものは第三者の取得した建物にかぎられ他の建物に及ばない。
二、第一審原告は第一審被告共栄商事に対し前記代金の支払いと引き換えに本件(一)の建物の引渡を求めているが本件(一)の建物はその賃借人である第一審被告清水甫保、同依田幸子の両名が占有しており、第一審原告は右賃貸借契約を承継すべきものであることは後に判断するとおりであつて、第一審被告共栄商事は第一審原告に対し本件(一)の建物の現実の引渡をなし得ない場合であるから、第一審原告の右請求は同被告に対し指図による占有の移転を求める趣旨においてこれを認容すべきものである。
第一審被告清水甫保および同依田幸子が、本件(一)の建物に居住してこれを占有していることは、当事者間に争いがない。〔証拠〕を総合すると、第一審被告清水甫保らは昭和三九年二月一日頃第一審被告共栄商事からその所有の本件(一)の建物を賃料月額八、〇〇〇円の約定で期限を定めずに賃借し、その頃右建物の引渡を受けて、電気、水道畳替等の工事を行つていること(現実に入居したのは昭和四一年六月頃)が認められ、前掲桜本順吉本人尋問の結果中この誠定に反する部分は信用し難く、他に右認定を動かし得る証拠はない。
しかして、第一審原告がその後昭和三九年五月六日第一審被告共栄商事のなした借地法第一〇条に基く買取請求権の行使により本件(一)の建物の所有権を取得したことは前記認定のとおりであるから、第一審被告清水甫保、同依田は借家法第一条の規定により上記賃貸借をもつて第一審原告に対抗し得るものというべきである。
第一審原告は、上記賃貸借契約は、その敷地である本件(一)の土地についての同原告と第一審被告清水隆信間の賃貸借契約が解除された後になされたものであるから、同原告に対抗することができないと主張する。
なるほど、第一審原告と第一審被告清水隆信間の本件(一)の土地を含む賃貸借契約が第一審被告共栄商事に対する無断転貸を理由として前記本件(一)の建物の賃貸借契約締結に先だつ昭和三八年一一月一九日に解除されたことは前に認定したとおりである。
しかしながら、建物の所有者がその敷地について使用権限を有しない場合であつても、右建物についてなされた賃貸借契約の効力に影響はないと解すべきであるから、賃借人が建物の引渡を受けた後に敷地の所有者が右建物の所有権を取得した場合においては、借家法第一条の法意に照らしその適用があるものと解するを相当とする。
(石田哲 杉山 小林定)